皇后陛下のミュンヘン国際児童図書館名誉会員就任について

皇后陛下ミュンヘン国際児童図書館名誉会員就任について
平成 31 年 2 月 1 日
この度、皇后さまに対してミュンヘン国際児童図書館のラーベ館長から、同図
書館(International Youth Library)の名誉会員にご就任頂きたいとの願い出が
あり、宮内庁において検討の結果、お受けいただくこととした。
1. ミュンヘン国際児童図書館は、第二次世界大戦後間もない 1949 年にドイ
ツのジャーナリストであり作家であったイエラ・レップマン女史により
創立されたものであるが、それは女史が、戦後の疲弊した社会の中で子供
たちに飢えを満たす食料と共に、心を養う本を見せたい、そして物語りを
通じて、より平和で自由な世界を作りたいとの思いからであった。 (こ
の経緯につき、皇后さまは後に「バーゼルより」と題して日英両国語で出
版されたバーゼルにおける IBBY(International Board on Books for Young
People 国際児童図書評議会)創立 50 周年記念大会開会式での、お言葉
の中で触れておられる。) 現在、同図書館は、全世界の児童書の収集を
行い、その蔵書は約 65 万冊に登り、蔵書の中で使用されている言語は 130
を超える。 また、世界各国の書籍を対象とする国際児童図書推薦リスト
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の編集、世界各国の研究者への奨学金事業などを行い、近年、世界の国々
で児童図書の巡回展示も行っている。
2. この図書館の創設者であるイエラ・レップマン女史は、1953 年、子供の
本を通じて国際理解を深めることを目指し、スイスで国際児童図書評議
会(IBBY) を設立しており、ミュンヘン国際児童図書館IBBY と緊密な
関係の下で活動し、我が国をはじめ各国の児童図書館の先駆的存在とな
っている。因みに現在世界における国際児童図書館は、このミュンヘンと、
その 51 年後の 2000 年、日本で誕生した国際子ども図書館の2つだけで
ある。
3. 皇后さまは、幼少のころから読書に親しまれ、永年、児童図書の活動に携
わってこられた。日本で数少ない児童図書館を補う形で発達した日本独
自の「文庫活動」に早くより関心を寄せられ、その関係から石井桃子、松
岡享子、島多代各氏等との親交を持たれ、先述の日本の国際子ども図書館
の開館式には、求められお祝いの言葉を述べておられる。(「あゆみ」 改
訂版 p297) また、IBBY の日本支部 JBBY の要望を受け、まど・み
ちお氏の詩の英訳を行われ、この時皇后さまが約4年をかけて英訳され
た約 80 篇の詩が、英語社会にまど氏を紹介する手がかりとなり、氏は
1994 年、児童文学のノーベル賞と言われる国際児童図書評議会IBBY
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の国際アンデルセン賞の作家賞を受賞している。それ以前、日本はこの賞
で画家賞二名を出しているが、作家賞はなく、まど氏はこの賞が始まった
1956 年以来初のアジアからの受賞者となった。
皇后さまは、海外をご訪問の折にも、パリ、ワシントン、トロント、ク
リチバ(ブラジル)等で、児童図書館や図書館を公的お仕事の合間を縫っ
て訪ねられており、このミュンヘン国際児童図書館も 1993 年に訪問され、
作家や画家、図書館員と交流されている。
また皇后さまは、IBBY のインド支部の要望に応え、1998 年、ニューデ
リーで開催された二年に一度の IBBY 第 26 回世界大会においてビデオメ
ッセージの形で基調講演を行われ、第二次世界大戦末期に小学生として
疎開されていた時の読書の思い出を辿られながら、読書によって自分以
外の人の悲しみや喜びを知る機会を持ったこと、そして生きていくため
に人は多くの複雑さに耐えていかなければならないことを知ったことを
お話しになった。(この時のスピーチは日本の新聞、テレビで詳しく報道
され、後に「橋をかける」と題して、日英二カ国語本として出版された。)
更に、先の頁でも触れたが、IBBY 本部の要望に応え、2002 年にはスイス
バーゼルで開催された IBBY 創立 50 周年記念大会に名誉総裁の一人と
して出席され、御自分が本から得た恩恵を語られるとともに、本を子ども
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たちに取り次いでくれる人々、とりわけ図書館で働く人への感謝を述べ
られた。そして、今、困難な状況を生きている子供たち、特に紛争の地で
日々を不安と恐怖の中に過ごす子ども達に触れ、彼らをただ憐れむので
はなく、この逆境を生き抜こうとしている彼らの中から、多くの悲しみや
苦しみを知った故に手に入れた新たな叡智をもって明日の世界を平和に
導く力ある人の生まれる可能性を信じたい、どうかこの子供たちを視野
に置き続けて欲しいとの思いを語られた。
4. ミュンヘン国際児童図書館のラーベ館長は、これまで皇后さまが本や本
と子供たちを結ぶ人たちについて持っておられるお考えに強く共感し、
更に皇后さまの示してこられたお考えと、イエラ・レップマンの考えとの
間に信じがたい程の関連性のあることに鑑み、皇后さまに是非同図書館
の名誉会員に御就任頂きたいとしている。なお、この申し出の中でラーベ
館長は、皇后さまの図書との深いおつながりに加え、皇后さまの、お心の
広さ、世界を動かしている大小さまざまな事象に対するご関心、皇后さま
が受けられたと察せられる人文主義的な教育、歴史や文学についてお持
ちの幅広い教養、言葉や 語 調
イントネーション
に対する類いまれな敏感さ、そして会話
の際、相手の言葉を聞こうとする優しく自然なお人柄等につき言及して
いる。
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5. 永年にわたる皇后さまの児童文学へのお関わりに鑑み、今般、皇后さまに
ミュンヘン国際児童図書館の願い出を受け、名誉会員をお受けいただく
こととしたい。 なお、同図書館の名誉会員は、象徴的な存在であって、
これにより何ら特段の責務を負うものではない。なお、これまでの同図書
館の名誉会員は、第二次世界大戦後のドイツにおける最も著名な作家の
一人、エーリッヒ・ケストナー(1899 年~1974 年)とスウェーデンの児
童文学作家、アストリッド・リンドグレーン(1907 年~2002 年、代表作
は「長靴下のピッピ」)の二人であり、皇后さまはそれに次ぐお三人目と
なる。