朝日新聞デジタル連載Sunday World Economy記事 医療サイト 朝日新聞アピタル トップ 記事一覧 連載 出産の72%が帝王切開 エジプト 医学的に必要ないのに広がる事情 有料記事Sunday World Economy カイロ=武石英史郎2023年2月26日 5時00分

 
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 妊婦が出産する際に、手術によって赤ちゃんを取り出す帝王切開自然分娩(ぶんべん)では産めない場合に一般的な方法だ。出産に占める割合は日本では2割程度だが、中東エジプトでは7割を超え、「経済問題にもなっている」という。何が起きているのか。

たけいし・えいしろう 1967年生まれ。2021年12月から中東アフリカ総局長。ツイッターアカウントは@isbtake

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帝王切開の比率が高い国、低い国

 首都カイロに住むノウラ・ゴウダさん(28)は3児の母だ。7年前、最初に長男を出産した際の自らの経験を語ってくれた。

 陣痛が始まり、クリニックに行くと、医師は「自然分娩できますね」と言った。

 その2時間後、ノウラさんは陣痛に耐えきれなくなった。最初から帝王切開と決めていた、妊婦の友人のことが頭に浮かんだ。

 「赤ちゃんが窒息するのでは」と不安になった。思わず医師に懇願した。「やっぱり帝王切開にしてください」

 立ち会っていた義母が「自然分娩を待つべきです」と遮ったが、医師は最終的にノウラさんの希望を受け入れた。

 3回の出産のうち、産み方を自分で選ぶことができたのは、その時だけだった。一度、帝王切開で産んだ母親が2度目以降、自然分娩することを医師は認めなかった。

 手術の間は痛みを感じなかったが、術後の痛みは長く残った。「最初の出産で、もっと辛抱すればよかった。娘には自然分娩させたい」

 カイロの食品会社員ラギアさん(34)は昨年2月に長男を出産した。自然分娩を強く望んでいたが、臨月に入って触診した医師に告げられた。「逆子です。帝王切開にしましょう」

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帝王切開による出産=カリム・タウィル医師提供

 手術は2日後に設定された。陣痛を経験することなく、30分ほどで終わった。ただ、その後3日間は術後の痛みで身動きも難しかった。

 医師のことは信用している。ただ、あのとき超音波診断の映像を自分で見て、納得ずくで手術を受ければよかったと悔やんでもいる。

 帝王切開が多いことを、医師はどうみているのか。

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妊婦を問診するカリム・タウィル医師=2022年9月25日、ギザ、武石英史郎撮影