冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ます存在の謎がついに解明か 「地下に海」の可能性は低下

冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ます存在の謎がついに解明か 「地下に海」の可能性は低下© ニューズウィーク日本版

冥王星の地表のクローズアップ画像 REUTERS/NASA New Horizons

<スイスやアメリカの大学などの研究者たちで構成された研究チームは、奇妙な地形は天体の衝突によって形成されたと結論付けた>

冥王星の表面には、巨大な「ハート型の地形」が存在していることをご存知だろうか? なぜ、どのように、この形が作り出されたのか詳しいことは分かっていなかったが、科学者らがその謎を解明したと主張している。彼らの研究によればこの地形は、直径が400マイル(およそ650キロメートル)を超える天体が衝突してできたものだという。

準惑星に区分される冥王星の表面にある、このハート型の広大な地形は、2015年にアメリカ航空宇宙局NASA)の無人探査機「ニュー・ホライズンズ」によって初めて観察され、「トンボー領域」と名付けられた。それ以降、天文学者は長年にわたって、その奇妙な形と地質学的な組成の謎に悩まされてきた。

そうしたなかでスイスのベルン大学、スイス連邦研究能力センター(NCCR)PlanetS、アリゾナ大学の科学者で構成される研究チームは広範囲に及ぶ研究の結果、トンボー領域の西側部分は、巨大な天体がゆっくりとした速度で斜めの角度から冥王星に衝突したためにできたという考えを示した。その詳細を論じた研究論文は2024年4月15日、「ネイチャー・アストロノミー」誌で発表された。

冥王星の表面には、明るい色の地形がいくつか存在するが、トンボー領域はそのなかでも最大で、直径は約1000マイル(1590キロメートル)に及ぶ。その名前は、1930年に冥王星を発見した天文学者クライド・トンボーに由来する。

カリフォルニア州の横幅ほどの大きさの天体が衝突か

ハートの西側部分はスプートニク平原と呼ばれ、周辺より標高が数マイル(3~4キロメートル)低く、窒素や一酸化炭素、メタンの氷で覆われている。この氷が太陽光を反射するため、地球からは明るく見える。このティアドロップ型の地形は、天体が衝突した際の衝撃でできたという。

研究論文の筆頭著者であるベルン大学の研究者ハリー・バランタインは声明で、以下のように述べた。「スプートニク平原が明るく見えるのは、その大部分が白い窒素の氷で覆われているためだ。その氷は移動し対流しているので、表面は常に滑らかなものになっている。この窒素はおそらく、衝突の後に、標高が低いその部分に急速に蓄積した可能性が高い」

新たに発表されたこの研究論文によれば、カリフォルニア州の横幅とほぼ同じくらいの直径の天体が、斜めに衝突したようだ。「スプートニク平原が細長い形状をしていることから、天体は、正面からではなく、やや斜めの方向から衝突したことが強く示唆される」。研究論文の共著者でベルン大学の研究者マルティン・ユッツィは声明でそう述べた。

研究チームは、粒子法流体力学(SPH)シミュレーションソフトウェアを使い、冥王星と天体との衝突をデジタル再現した。そして、双方の構成物質や、天体の衝突速度、衝突の角度といった不確定要素を入れ替えつつ、シミュレーションを行った。こうしたシミュレーションは、斜めからの衝突という研究チームの仮説を実証し、衝突した天体を構成していたと考えられる物質を特定するのに役立った。

冥王星の核は非常に低温であるため、(表面の)岩石がきわめて硬く、衝撃によって熱が生じても融けなかった。また、衝突は角度があって低速だったため、衝突した天体の核が冥王星の核に入り込まず、叩きつけられて平板になり、表面に残った」とバランタインは述べた。

このように、低速で斜めの角度から衝突したことで、奇妙な形の地形になったと考えられる。より速度があって、もっと正面から衝突したのであれば、均整の取れた形のクレーターができていただろう。

地下に海が存在しない可能性を示唆

「私たちは、惑星の衝突はきわめて激しい事象であり、エネルギーや推進力、密度といった要素以外の詳細は無視していいと考えることに慣れている。しかし、太陽系のはるかかなたでは、(衝突の)速度はずっと遅く、氷は強固であるため、計算時には一層の正確さが必要となる。面白いのはここからだ」

研究論文共著者でアリゾナ大学の研究者エリック・アスファーグは声明でそう述べた。「スプートニク平原の地下のどこかには、冥王星が完全には同化しきれていない、別の巨大な天体の核が残っている」

こうした発見は、冥王星の内部構造が、もともと考えられていたものとは異なり、地下に海が存在しない可能性を示唆している。かねてから、冥王星の地下には液体の水が存在しているという仮説が立てられてきた。だからこそ、スプートニク平原は、冥王星の赤道付近に位置しているという説明が成り立っていた。

しかし、このたび示された新しい説によれば、スプートニク平原は衝突の起きた場所であるため、地下に海が存在している必要はないことが示唆される。

「私たちが行ったシミュレーションによれば、衝突によって、冥王星に最初から存在していた原始マントルすべてが噴き出した。加えて、衝突した天体の核が冥王星の核に叩きつけられて、局所的に質量が過剰な場所ができた。これなら、地下に海が存在しなくても、赤道に向かう(窒素の)移動があることが説明できる。あるいは、地下に海があったとしても、非常に浅いものであり得る」とユッツィは述べた。

(翻訳:ガリレオ